『自省録』ブックカバーチャレンジ2日目

【ブックカバーチャレンジ】NO.2
『自省録』神谷美恵子訳、1949年、創元社、1956年岩波文庫

『自省録』は神谷美恵子が日本で初めて翻訳しました。

『生きがいについて』の基礎は『自省録』であると神谷自身も言っています。

『自省録』は、神谷が育児の傍ら、翻訳し、
1949年、創元社から初版刊行され、1956年10月25日、岩波文庫から刊行されています。
1965年4月10日刊行にはすでに11刷で再版されていて、当時の読者の心を掴んだ一冊であったのでしょう。2007年に改版され、現在もたくさんの方々に読み継がれています。

1935年津田塾の学生の時期、神谷は結核に罹患、一度は治りましたが。
1936年再発、この折、神谷は治癒は難しいかもしれないと考え、世界の名著を読みます。ヒルティ、ダンテ、プラトン、ギリシア語の新訳聖書など、そして、自省録。特に『自省録』が神谷の心の支えになりました。

『自省録』は、ローマの皇帝マルクスアウレリウスが自分に語りかける形で記されたものでした。
マルクスアウレリウスは、1900年前、2世紀頃に活躍したローマ皇帝。ローマ総督、執政官の祖父のもとで育ち、アントニウスビウスに40才の時に養子に迎えられた。これは、奴隷のエピクトーテスの書き物を通し、身につけたストア哲学。

200年続いた繁栄と平和に翳りの見えた時期に、彼が、闘いの中でテントの中で書き留めた言葉が自省録です。
ひたすら、自分を内省し、自らの言葉で書き留めました。彼の求めていたのは、哲学でした。

マルクスアウレリウスがローマ皇帝の時代になり、戦争、川の氾濫、地震などに襲われるようになりました。ルーキウスを司令官に派遣し、軍は勝利を収めましたが、ルーキウスがペストに罹患、疫病は、ライン河まで至りました。結局、ルーキウスは病で亡くなってしまい、マルクスアウレリウスは1人で国を治めましたが、また戦争がおき、マルクスアウレリウスは自らの財宝を競売にかけて国の為に準備しました。そして、自らが軍の先頭に立ち、非衛生極まる地帯に陣営を構え、長い戦いの中に身をおきました。『自省録』の第一巻は、この時に書かれた陣中手記です。『自省録』はマルクスアウレリウスの静かな瞑想の時に記されたと神谷は解説しています。

「すべて生命を有するものの義務はその創られた目的を果たすにある。しかるに人間は理性的に創られた。ゆえに人間はその自然(ピュシス)に従って、すなわち、理性に従って生きれば、自分の創られた目的を果たすことが出来る。そのためには、絶対に自律自由でなくてはならない。他人に対してしかり、また自分の肉体からくる衝動や、事物にたいする自分の誤った観念や意見にたいしてもそうであって、これに囚われてはならない。なかんずく死に対する恐怖から解放されていなくてはいけない。」

「自己の内を見よ、内にこそ善の泉がある。君が絶えず堀り下げさえすればその泉は絶えず湧き出るであろう」

「お前がこんな目に遭うのは当然だ。今日善くなるよりも、明日善くなろうとしているからだ」

「お前が何か外にあるもののために苦しんでいるのであれば、お前を悩ますのは、その外なるものそれ自体ではなく、それについてのお前の判断なのだ。」

「絶えず波が打ち寄せる岬のようであれ。岬は巌として立ち、水の泡立ちはその周りで眠る」

素晴らしい神谷の翻訳により、2000年前のマルクスアウレリウスの言葉が甦っています。
神谷美恵子の翻訳を通じて、今、私たちは学ぶ事が出来ることは幸せです。まさに、いつの時も小我より大我に生きた神谷の生き方そのものが伝わる著書です。

神谷の言葉
「もっとも高貴な人生を生きるには必要な力は魂の中に備わっていて、ただし、それはどうでもいいことがらに無関心であることが条件である」

「わたしもかつて自分の外にあるものをどう受け止めるか、その「受け止め方」を検討するのが大事だ、と気づかされたのだった。
マルクスアウレリウスは、過去も未来も問題にするに足りない、現在だけをよりよく生きることに専心するがよいと至るところで言っている」

1965年、皇居の美智子皇后の相談相手として通い始めた折に、美智子皇后から、「どんな本を読めば良いですか」と尋ねられたそうです。
神谷は、『自省録』を勧めました。すると、当時まだ皇太子だった平成天皇は既に『自省録』が愛読書の一冊であり美智子皇后も愛読されていたそうでした。

『生きがいについて』の第7章「新しい生きがいを求めて」には、避けられない苦しみや悲しみを安易に誤魔化してしまわず、耐えがたい生を持ちこたえる為にはストア的な抑制と忍苦の力が要ると神谷は、自省録からひいて書いています。

生きがいは、生きる意味にかかわる事であり、人生観、価値観、世界観を基礎にする奥深い、重々しい問題であり、哲学者になるという自分の好きな道にいく事ができなかったマルクスアウレリウスがその重い責務の中で自らに語りかけていた言葉『自省録』は、現代を生きる私達にも語りかけて寄り添ってくれる一冊です。

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